[fusion_text]アメリカが大恐慌に陥っていた頃の話。
丸太が山積みになったリアカーを車の後部に結び、悪路の中、丸太を運んでいた男がいた。しかし、山道の途中で、リアカーは側道の溝にはまってしまい、動かなくなってしまった。
引き上げようとしても、車の馬力が足りなくて、リアカーは溝から抜けてくれない。途方に暮れて座り込んでいたときに、一人の老人が通りかかって、男に尋ねた。
「どうしたのかね?」
「リアカーが溝にはまってしまって動けないんです」
「それは大変だ。マイキーに手伝わせよう」
「マイキー?」
「わしのロバだよ」
「ロバでは無理です。かなり深くはまっています」
「それは、やってみんとわからんよ」
そういって、老人はロバを一頭連れてきた。
連れてきたのは、老人と同じくらい、年老いて見えるロバだった。
「これがマイキーですか?」
「そうじゃ」
こりゃだめだ。男はそう思った。
そして、男の予想通り、マイキーがリアカーを引き上げようとしても、リアカーは溝から抜け出す気配はない。
老人は、マイキーを鞭で打って叫んだ。
「それいけ、マイキー!お前の力を見せてやれ!」
しかし、リアカーは動かない。
「年老いたロバには無理ですよ」
その様子を見ていた男は、思わず口を挟んだ。
「そこだ!もっと力を入れろ、スティービー!」
老人は、鞭を振るって、再び叫んだ。
「え?スティービー?」
男は戸惑った。確か名前は、マイキーのはず。
すると、リアカーは少しだけ動き出した。しかし、まだ溝から出るほどは動かない。
老人は、鞭をしならせ、三たび叫んだ。
「行くぞ!しっかり踏ん張るんだ、フランキー!」
「今度はフランキー?」
すると、リアカーは大きく動き、ついには溝から抜け出した。
男は老人に何度もお礼を述べつつ、こう尋ねた。
「どうしてマイキーを三つの違った名前で呼んだんですか?」
老人は答えた。
「マイキーのことを違った名前で呼んだわけではないよ」
老人は続けた。
「マイキーは目が見えないんだ。もしマイキーが自分一人で引っ張っていると考えていたら、あんたのリアカーは、今も溝にはまったままだっただろうよ」
人は大変な環境に立ち向かうとき、一人きりで向かっていく必要はない。人生の困難には、一人きりで戦う必要はない。誰もが一人で戦いの場にいるわけではない。
人生を引っ張り上げるとき、一人きりで引っ張るよりも、誰かが一緒に引っ張ってくれているとわかると勇気付けられる。力も湧いてくる。
一人で困難と戦っているように見える人がいたら、その人の人生を一緒に引っ張ってくれるような人間が増えてほしい。
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