青山しゅんどうの本に、『大丈夫の小石』という物語がある。次のような話だ。
あるとき、大きな手術を受けることになった男性に、僧侶が「大丈夫」と書かれた小石を持って、お見舞いに行く。その石を見て、「ああ、これで手術はうまく行くんですね。大丈夫なんですね」と言うその男性に、僧侶は優しく言った。
「これは、あなたや私の思い通りに状況が進んでいく『大丈夫』の小石ではありません。『これから何が起こっても、あなたは大丈夫』という大丈夫の小石です」
その「大丈夫」は、自分が望む方向に物事が行く「大丈夫」ではない。そうではなく、「たとえどんなことになったって、たとえどっちの道に転んだって大丈夫」、僧侶が持っていったのは、そんな大丈夫の小石だ。
多くの人と同じように、僕も今までに、何度か人生の窮地に立たされたことがある。人に騙されて人生の進路変換を余儀なくされたこともあるし、詐欺師に嫌がらせを受けて一時的に仕事ができなくなったこともある。
でも、その度に前向きに先に進んで、目の前の道を切り拓くことができた理由の一つは、「死ぬわけじゃないし、10年前の苦しさに比べれば大したことない。戦略的に方向を定めて今までみたいに死ぬ気で努力すれば、きっと大丈夫だろ」というポジティブな姿勢を崩さなかったからだと考えている。
これからも、大変なことが襲い掛かることがあるだろう。自分自身の責任で苦しむこともあれば、誰かに嫌がらせをされる場面もあるかもしれない。でも、行き詰ったとき、不安をおぼえたときには、そっと大丈夫の小石を握りしめて、「大丈夫」と自分に言い聞かせながら、いつでも未来を見つめていきたい。