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【ヨーロッパ大学留学】コンピューターサイエンス・IT専攻ランキング(ハンガリー、チェコ、ポーランド、エストニア、etc.)と留学生を利用したランキング操作と資金集めのカモになるアジア人

エトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)、ブダペスト工科経済大学(BME)、ワルシャワ大学、ワルシャワ工科大学、チェコ工科大学、カレル大学、タルトゥ大学など、日本語SNSでも情報が出ている大学が、コンピューターサイエンス(CS)・IT専攻のランキングでどの位置にいるのか、どういう点で評価を操作しているのかなど多数の面を、保護者面談の説明に使うためにまとめてみた。

2015年からコロナまでは、毎年6ヶ月をヨーロッパで過ごし、大学調査、現地の生活調査、大学との現地会議に費やしていたので、マレーシア、韓国、台湾、少数のインドの学生のデータをもとに、少しメモを残しておく。この辺りの大学は、実際に現地を回ってみると、日本人の感覚では良くない意味で驚くようなことが多々あるので、現地訪問は必須と言っていい。現地を知らずに大学評を行うことは不可能。

後述するように、ランキングはある程度の操作が可能なので、信奉はしないこと。大学調査をしないで、ランキングを並べても意味はない。ここでは実際に大学訪問した際のまとめ記しておくので、SNSを含めたネットの誤情報にお困りの保護者の方々は、これを資料の一部としてご利用ください。

注目集めやビジネス誘導の目的のSNS発信をしている人は、自分のプライドや保身は脇に置いて、「未来の子どもたちに正確な情報を残す」ことだけを優先すること。この点を守れない大人や特定地域の留学生が、クローズドの場や日本語のSNSでは目に付き始めている。高校生や大学生から報告で送られてくるスクショの内容がかなり酷いので、場合によってはTwitterで公開する。

対象になる国

このランキングは、国を以下に限定している。例外は多々あるけど、この辺りは大雑把に言って、EQFレベル3で出願できるところ。入学のハードルは低め。

  1. チェコ
  2. ポーランド
  3. ハンガリー
  4. ルーマニア
  5. クロアチア
  6. スロバキア
  7. スロベニア
  8. エストニア(バルト三国)
  9. ラトヴィア(バルト三国)
  10. リトアニア(バルト三国)

使ったのは、QSとTimes Higher Education(THE)の大学ランキング。科目別に見ないとランキングは意味がないので、ここではComputer Science and Information Systems(QS)、Computer Science(THE)の二つを取り上げている。

上海交通大学の世界学術大学ランキング、CSRankingsなどは、この地域の大学をそもそも対象外にしていることもあるので、ここでは取り上げていない。

また、後述するように、ランキングは留学生を利用してある程度の操作が可能であることは、念頭に入れること。一部の関係者のように信奉はできない。学費が安いヨーロッパの一部の公立大学の学部は、日本や韓国のスタンダードでは問題になることも平気で行っている。

2022年対象10カ国のランキング上位

QSでトップ20の大学

上記の国のComputer Science and Information and Systems専攻のQSランキングを上から並べるとこうなる。

10年くらい推移を見ているけど、「理系で強い国はチェコ。それを追うポーランド」という二強の構図は、ずっと変わっていない。

トップ8の大学

1位から8位までの大学を上から日本語にすると、以下のようになる。

①チェコ工科大学(チェコ)
②ワルシャワ大学(ポーランド)
③カレル大学(チェコ)
③ワルシャワ工科大学(ポーランド)
⑤ブダペスト工科経済大学(ハンガリー)
⑤タルトゥ大学(エストニア)
⑦ブルノ工科大学(チェコ)
⑦リュブリャナ大学(スロベニア)

頭ひとつ抜けているのは、チェコ工科大学。ここは、この地域では最も理系分野の環境が整っている大学で、サイエンス系の就職・インターンで近隣企業に多数の繋がりがある。

アマゾンのAlexa Prize SocialBot Grand Challengeでも、チェコ工科大学は英語圏の大学を抑えてここ数年のトップグループの常連。すごい日本人も在籍しているらしい。

チェコ工科大学は、ドイツのミュンヘン、ドレスデン、ライプツィヒ、ベルリンなどにも地理的に近い上に、卒業生が卒業した後も3年間、大学のキャリアセンターによるキャリアサポートを受けられるのは、ドイツも視野に入れた現地就職への利点。

英語で開講する授業の種類や数、英語で運営するプログラムの歴史の長さ、理系分野の学内の繋がりの広さ、充実した就職の後押しがあるという点でも、この地域の他の大学を頭ひとつリードしている。

特に留学先の国にこだわりがなければ、「この地域で英語でコンピューター、情報学系の学位を取るなら、チェコ工科大学一択」と言ってもいい。

チェコは若年層の失業率もEUで最も低く、理工学系の卒業生は、かなりの売り手市場。先日プラハで出会った友人のパートナーの日本人も、東京からプラハに直接転職している人だった。

トップ9〜20の大学

トップ8に次ぐ9〜20位の大学を日本語にすると、このようになる。日本語訳は通称を用いている。

  • マサリク大学(チェコ)
  • バベシュ・ボーヤイ大学(ルーマニア)
  • エトヴェシュ・ロラーンド大学(ハンガリー)
  • ヤギェウォ大学(ポーランド)
  • ブカレスト工科大学(ルーマニア)
  • ヴロツワフ工科大学(ポーランド)
  • AGH科学技術大学(ポーランド)
  • リガ工科大学(ラトビア)
  • ブカレスト大学(ルーマニア)
  • ヴィリニュス・ゲディミナス工科大学(リトアニア)
  • ポズナン工科大学(ポーランド)
  • タリン工科大学(エストニア)

この辺りまで低くなると、実際に訪問していない大学もあるので、明言できないことも増える。

リガ工科大学、ヴロツワフ工科大学、AGH科学技術大学、ヴィリニュス・ゲディミナス工科大学は、コンピューターサイエンス・ITで教育、研究の評価は相対的に高い。

エトヴェシュ・ロラーンド大学は、今でこそ教育の質の悪さが話題になっているけど、現在は留学生の学費を値上げして資金集めをしている段階で、そのお金を利用した教育・設備投資が将来的に行われれば、これからちゃんと環境が整うと予想されている。

日本の大学のように英語化が遅れたとはいえ、ポーランドのAGH科学技術大学は、もう少し研究、教育が評価されてもおかしくない印象だけど、それ以外は順当に見える。

対象10カ国のメモ

チェコ

トップ20にランクインしたのは4大学。全てトップ10入り。

上位に入る大学を見るとわかるように、コンピューターサイエンス・IT全般で強いのは、このエリアではチェコ。どの評価を見ても、チェコ工科大学とカレル大学の二つの研究、教育の評価は安定していて、ブルノ工科大学、マサリク大学の評価も、この地域では相対的に高い。

ただ、ブルノとマサリクは、英語化が進んでいない。英語でプログログラムを開講している歴史がまだ浅いので、研究者、教育者は、さすがに海外からは集まりにくい。

「工学系にも強いチェコ工科大学は、以前から実践的な情報・物理学としてのCS、カレル大学は数学を元にしたCS」というカリキュラムの組み方で、この点は、オランダの工科大学と総合大学のCS専攻の違いにも少しだけ似ている。

ポーランド

トップ20にランクインしたのは、6大学。

ポーランドは、大学の理系教育で評価を上げ続けている国。7年前と比較すると、首都ワルシャワのワルシャワ大学、ワルシャワ工科大学の2校が評価を上げている。ここ10年の推移を見ていると、古都クラクフにあるAGHとヤギェウォ大学の二校は、ワルシャワと比べると伸びが鈍化した印象。二つともいい大学だけど、キャンパスを訪問して調査するとわかるように、英語化には大きく遅れをとっていて、この点で評価されにくい。英語で留学するのに適した環境とも言い難い。

ワルシャワは、ここ10年の都心部周辺の開発がめざましい。ワルシャワは経済規模が比較的大きい国の首都で、毎年訪問していてワルシャワの変化には驚かされる。政治的にも経済的にも興味深い国で、英語のプログラムはキャンパスが微妙、英語の授業が少ない、学生の学習熱が低いなど、英語のプログラムは東欧の古い公立大学にありがちな点はあるけど、社会科学系の留学にも面白い地域。

ポーランドには、以前から海外就職ネットワークの強い韓国人が積極的に進出している。本国のサムスン、ヒュンダイで働く韓国の友人たちが、コロナの規制が緩んで真っ先にヨーロッパ出張に行ったのも、ポーランド(&ユーロ通貨圏のスロベニア)だった。ポーランドは急激に成長している国で、僕も以前から注目している。

ハンガリー

トップ20にランクインしたのは、2大学。

ハンガリーは、ここ7年で学費が約1.5〜4倍と専攻によって大幅に上がり、政府奨学金を取る以外、コスパの点でチェコやポーランドを大きく下回るようになっている。教育環境を整えずに学費だけを上げて批判を浴びた直後なので、2019年くらい以降からハンガリーの大学を選ぶ人は注意が必要。値上げされた高い学費が後年の設備投資に変わるまで、今の学費で以前からの教育環境で学ぶ2019年〜現在までの学生は、どうしても少し損をしてしまう世代。

「ハンガリーはコンピューターサイエンスで有名」などということも全くない。今まで四人の高校生・浪人生が「ハンガリーはCSで有名だから」と言って連絡をくれているけど、そんな事実は一切ない。

ある日本のインターナショナルスクールでは、英語で正確な情報を取れる英国人を含めた保護者グループが、日本語特有の誤情報に騙されてハンガリーを選ばないように、LINEで注意のメッセージまで回している。

国や街を理由に大学選びをする人以外は、他にも多数の選択肢がある中、6,000ユーロ程度もの学費を払ってこのレベルの教育を受けていいかどうか、一度、授業見学をして決めるのがおすすめ。そもそも英語で学べる授業の選択肢が少なく、学部の予算もないハンガリーの大学に理系専攻で行くなら、現地で事前調査が必要。

ポーランド同様、政府の政治的スタンスで議論を巻き起こす国なので、政治・国際関係学系で進学する人には特に面白い進学先だし、ハンガリーの大学は「就職や賃金は特に気にしない。ハンガリーという国、文化が好きだから、ここで学びたい」という理由で選ぶ人にお勧め。

ハンガリー人の友人も多いし、文化的にも、ここはすごく好きな国。何度も長期滞在して馴染みがあるし、日本からも人が増えてほしい。

その他

個人的に2013年からずっと注目しているのは、エストニアのタルトゥ大学。ここは日本人が増えてほしい大学の一つ。大学の公式サイトが微妙だし(2021年12月現在)、教育レベルを考えると、今はまだ日本や韓国からの留学先としては微妙かもしれないけど、僕が生きている間には、チェコに迫るようになると期待している。

国別ランキング

Times Higher Education(THE)は評価の仕方が独特で、専攻別では役に立たないことも多いけど、日本では必要以上に広く使われているので、日本人向けに併記してあげておく。

質問が最も多い国から順にアップロードしていく予定。ハンガリーが多かったので、まずはハンガリーから。時間を見つけて、次はチェコとポーランドをアップする。

ハンガリー

QS

QSでは、1位がブダペスト工科経済大学、少し差がついて2位にエトヴェシュ・ロラーンド大学。科目別では、THEよりもQSの方が妥当な順位を導き出すことが多い。

Times Higher Education(THE)

THEでは、オーブダ大学、ブダペスト工科経済大学、デブレツェン大学、エトヴェシュ・ロラーンド大学、セゲド大学が順番にランクイン。

ハンガリーに詳しい人の中には、「まさかの一位がオーブダ?」と思う人もいるかもしれないけど、オーブダに交換留学に来ていた大学生がきっかけで大学訪問したときは、大学の説明を受けて、少し(あくまで「少し」だけど)納得した。

確かに、オーブダはハンガリーの大学の中では、THEのランキングの指標に相性がいい。

繰り返すけど、THEの専攻別ランキングは指標が独特なので、あまりこだわらないこと。ポーランドでも、現地の大学人の評価とはかけ離れた結果が出てくる。

就職に関して

基本的にこの地域の理系留学は、大学院を視野に入れない限り、「海外就職するだけじゃなく、高い給料もほしい」というタイプには向いていない。もう少しその願望の実現の可能性を広げたい人は、この辺りは大学院へのステップとして考えるか、そもそも学士課程のみで就職したいなら、英語圏、ドイツなど別の地域に行った方が可能性が大きく広がる。

僕が大学調査を始めた13年くらい前には、「チェコ工科大学ではイギリス(当時はEU加盟国)に就職できる」と力説していた日本人がカナダにいたけど、これは「少数の例外を一般化する」という初歩的な間違い。「N=1、N=少数を一般化するミス」はよくあって、今も昔もこの辺りの間違いの傾向は変わらない。

可能か不可能かと言われると、どんな教育レベルの低い大学からも(そもそも、高卒でも)高い給料でイギリス就職できる人はいるので、イギリス就職は「可能」ではある。高卒でも、中卒でも、イギリス就職自体は「可能」だ。

ただ、その可能性が低い。日本の高卒からのイギリス就職と同じで、可能かどうかを聞かれると「可能」にはなるけど、これは可能か不可能かの問題ではなく、確率の高低の問題。

わざわざ可能性がより高くなる選択肢を選ばずに、可能性の低いものを選んでいる点で、大学選びの戦略としては賢明とは言えない。日本人、台湾人、韓国人、カザフスタン、アゼルバイジャン人、インド人、パキスタン人、ベトナム人などの就職状況を何年も追ってきたけど、この地域の大学から高い給与水準を狙うのは、すでにある程度の実績があるか、大学院に行くかしないと厳しい。CS専攻でトップの日本人卒業生も、新卒でヨーロッパ就職はしたものの、給与的にはかなり厳しい国・環境で働くことになっている。

繰り返すけど、チェコ、ポーランドから大学院にも行かずに、韓国語、中国語を生かして近隣のドイツなどに就職できた韓国人、台湾人はいる。でも、あくまで全体のほんの僅か。地域トップのチェコ工科大学のアジア人卒業生でさえ、日本就職を視野に入れたキャリアフォーラムを除き、より賃金の高い国へ就職できる確率は高くない。有利な条件の揃ったチェコ工科大学ですら西欧、北欧への就職は苦戦するので、サイエンス教育のレベルが下がるハンガリーやルーマニアになると、その可能性は更に下がってしまう。

よくある間違い

就職に関して、今まで連絡をしてきてくれた高校生、大学生の間違いは、どれも似ている。少数の例外を一般化する間違い以外で、連絡を取り合った保護者の方々が直感的におかしいと感じていた部分を、ここでは3点抜き出して挙げてみる。

最低限、この三点を区別していないと、話が噛み合わない。

EUとNon-EU

一つ目が、EU圏と非EU圏の学生の就職を混同していること。

EU圏と非EU圏の学生の就職事情は大きく異なり、ビザがない非EU圏の学生は、そもそも職探しは競争前から不利になる。ビザに手間が一切かからないEU圏のパスポート保持者を差し置いて、雇用する企業に高い手数料と煩雑な書類処理を強いる非EU圏の学生がEUで雇われるには、特別なスキル、コネ、運など、相応の要素が必要になる。

例えば、ドイツには、英語もドイツ語も流暢なCS・IT専攻、かつEUのパスポートを保持する学生が大勢いて、英語ネイティブの学生もいる。あいさつ程度のチェコ語とビジネスレベル英語ができる程度のチェコ工科大学の日本人学生がドイツで雇われるには、このような競争相手よりも「たとえ高額な外国人雇用の手数料と面倒な雇用ビザ手続きを負担してでも、ドイツの大学を卒業して英語とドイツ語ができるEU圏の学生ではなく、この人を雇った方がいい」と雇用主に納得してもらう必要がある。

これを跳ね返せるのは、中国語の需要を上手に活用して海外就職をする中国人、台湾人留学生を除き、EU圏外のパスポートでも、英語ネイティブでもない場合、ある程度限られる。

最重要項目の一つであるビザ問題を知らずに海外就職は語ることはできない。BBCの大井真理子さんですら、大学卒業後のビザで苦労した過去がある。

EU圏と非EU圏の学生の就職事情を混同するのは、大人でもちらほらいる。この基本ラインは必ず区別すること。

ついでに言えば、二重国籍でEU圏のパスポートを持っている非EU圏の学生の就職に関しても注意すること。たとえ中南米やアジアの学生でも、二重国籍でEUパスポートを持っている時点で、その人はEU圏の学生と同様の扱いを受ける。就職の不利もない。単一の国籍しかない日本人、韓国人のビザ事情とは異なるので、この点を確認していない海外就職論にも要注意。

EUなども含めた複数パスポート持ちの人ではなく、平均的なEUのアジア人学生が具体的にどこに就職し、その給与水準がどのくらいか、調べた人がいたら、ぜひ教えてほしい。SNSには間違いが多すぎるので、ちゃんとデータ(初歩的な話になるけど、政府や正式な機関のデータ以外は無意味。いくらでも操作可能なものは全く意味がないので、ここ指しているのは公式のデータ)で出してくれる人がいると、未来の子どもたちは大いに助かる。

修士号の有無

海外就職で連絡をしてくる人たちのよくある間違いの二つ目は、修士号の有無を無視していること。

最近チェコからイギリスに就職したインドの友人も、就職したのはチェコ工科大学から直接ではなく、イギリスの大学院を出てからだった。チェコ工科大学に行って就職できたのはなく、単にイギリスの大学院を出た影響が大きく、イギリスで現地の仕事探しビザを利用して、イギリスで就職できたというだけ。

2017年のアムステルダムのミートアップでは、日本のD大学の学部を出て、アイントホーフェン工科大学(オランダの理系トップ大学の一つ)の修士からオランダの現地企業で働いていた日本人に出会ったことがある。D大学からオランダに来る経緯を話してくれたとき、彼も「Dの学位なんて役に立たなかったですよ。ここで修士取らないとオランダで雇ってもらえなかったです」と言っていた。

内情を知らないと「日本のD大学を出ればオランダで現地就職で高給取りにもなれる」と錯覚するけど、そもそも現地の大学院に行っているのだから、彼の就職に学士課程のD大学は関係ない。

留学生・資金集めの英語プログラムと現地語プログラム

よくある間違いの三つ目は、英語プログラムと、現地語プログラムを、区別して考慮していない点。

ヨーロッパには、元々ある現地語のプログラムに、後で英語プログラムを付け足した学部がたくさんある。このタイプの英語プログラムは、いわゆる難関大学でも入学が簡単。

留学生を集める英語のプログラムを大学が次々と作るのは、学部の国際化が名目上の理由にあがりやすい。けれども、実際はある大学の副学長とある学部の学部長がミーティングで僕に言ったとおり、「留学生(僕が直接言われたのは「アジア人」留学生)を集めて、学部の財政的状況を改善したい」という面が如実にある。現地語のプログラムと分けて分析しないと、よくある大学ランキングの表層だけ見て、大学や学部を判断して、間違った発信を広めてしまうことになる。

留学生が大多数の英語のプログラムが教育が散々な状態なのは、基本的に資金が原因。お金がない国のお金がない学部は、質の高い教育や研究を行うスタッフ、学内運営をするスタッフを集めにくい。

英語で研究できて、英語で教えられる教員は、もっと給与の高いところに行く。英語圏や日本や韓国の平均的な大学レベルの学部運営は、お金のない学部には不可能と言ってもいい。

優秀な研究者や教育者を集められない学部は、大事な教育の部分を学部・院生バイトで埋めたり、非常勤講師を使ったりしている。一貫した研究や教育ができるはずもなく、大学の生き残りのために急造した英語プログラムの運営が、日本では考えられないほど崩壊しているのは、いくつかの学部で実際に観察できる。

ワルシャワ大学、ELTEの一部の学部の評判が一時期アジアで急落したのも、この点が無関係ではない。

現地の人が主に通う現地語プログラムと英語のプログラムを分けて考えないと、ネット上だけで情報をとる人は簡単に惑わされて、現地でびっくりするので要注意。作られて日の浅いプログラム(高い確率で教員もスタッフも、時には教室ですら揃えられていない)、現地語プログラムとは教室の設備などが著しく劣るプログラムは、地雷の可能性が高くなる。

ついでにもう一つ

大学の就職率や卒業生の平均給与を見るときは、表面的に出てくる数字を見て何かを判断することはできない。

医学部、薬学部、神学部(M.Divコース)、歯学部、初等教育などの専攻がある大学は、大学全体の就職率が高くなりやすい。

また、医学部、法学部などの専攻がある大学の卒業生の平均給与は高くなりやすい。

この辺りは、方々で言われている基礎知識。高校生、大学生は、各大学ごとの卒業生の給与水準を見るときに、騙されないように注意してほしい。

これに関する政府や公式機関のデータは、今のところ見つからない。チェコ工科大学を調べようと思ったけど、統計ではとても使えないレベルのデータもどきの数字はネットに落ちていても、まともなデータは、英語、チェコ語、ドイツ語、スペイン語、フランス語でも全く出ていない。

以前のように現地の会社の調査員を雇えばできなくもなさそうだけど、調査員には多額の費用がかかって損失だけが嵩むので、できれば違う方法を日本語で残してみたい。いい方法がある人は、ぜひ教えていただきたい。

国別の平均賃金

平均賃金が近い国同士では、人材の流動性が相互で高くなる傾向があるので、国を移動する際に賃金の比較ができるように、下に世界銀行のデータをまとめてみた。

国を跨ぐ就職は厳しいけど、最初から教育を受ける国を選び、競争の激しくない場所を狙いさえすれば、ヨーロッパ就職自体はそこまでハードルは高くない。

対象10カ国の平均賃金(USドル)

参照元がアメリカドル表記にしかならないので、そのアメリカドルの数字をそのまま表示する。

データは、「Net income(手取り)」の数字であることに留意していただきたい。通貨にユーロを使用するスロベニアが、給与も物価も最も高い。次いで北欧に近いエストニア、そしてチェコ。

ベスト3は、マーカーで色をつけている。

  • チェコ:17,343
  • ポーランド:13,255
  • ハンガリー:13,582
  • ルーマニア:10,874
  • クロアチア:12,496
  • スロバキア:15,650
  • スロベニア:20,746
  • エストニア(バルト三国):19,446
  • ラトヴィア(バルト三国):13,774
  • リトアニア(バルト三国): 16,504

参考:Adjusted net national income per capita(世界銀行のデータ)

OECD諸国の一部の平均賃金(USドル)

日本や北欧、西欧の一部も、上記との比較対象の参考にしてほしい。これも「Net income(手取り)」の数字。

  • 日本:32,482
  • フランス:33,724
  • ドイツ:39,093
  • オランダ:43,778
  • スイス:65,600
  • スペイン:25,055
  • スウェーデン:43,998
  • フィンランド:39,812
  • ノルウェー:60,776

参考:Adjusted net national income per capita(世界銀行のデータ)

チェコからドイツ、オランダ、スウェーデンなど賃金の高い国に行くのは難しいけど、チェコに近い、もしくはチェコより低い賃金の国に就職するには、実際はそこまで難しくない。

理由は、高いレベルでの競争が激しくないから。

スキルのある人は、賃金の高い国に職を求めて集まる傾向が非常に強い。賃金の安い国は比較的競争が緩くなり、たとえビザで不利になっても、スキルや実績次第で日本人も入り込める余地が十分にある。

アジアで言えば、「フランス人がカンボジアの大学にサイエンス留学しても、シンガポールや韓国に現地就職できる確率は低いけど、サイエンス教育・研究の水準、平均賃金が似ていて、地理的にも近いベトナムに就職するのは高い壁ではない」という類の話。

大学の教育・研究水準、平均賃金を基準に、ヨーロッパの国々をアジアの国々に例えてみると、似たようなことが当てはまる。イギリス人、ドイツ人、フランス人などにとっては、東欧はアジアに置き換えると、東南アジアの一部の国のイメージ。

多くの東アジア人にはヨーロッパの国はイメージしにくいと思うので、ヨーロッパ留学に関しては、東アジア人ではなく、英国人、フランス人、ドイツ人などに聞いてみるのがおすすめ。日本語や韓国語情報には、あまりに間違いが多い。

「アジア就職してグローバル賃金がほしいから、カンボジアに留学する」という不思議な選択をするヨーロッパ人はいない。韓国のような科学技術に強い国で、母国フランスと同程度の給料で就職したいフランス人は、カンボジアの大学に理系の学位を取りに行くのではなく、韓国や韓国に理系の教育・研究レベル、教育環境が近い国に留学する。

アジアとヨーロッパを入れ替えても、基本的な戦略は同じ。

再考して他に行った方が良さそうなタイプ

他の国の大学に行った方がいいと思われるケースは、以下に当てはまる人。

  • ヨーロッパ就職をして日本と同程度以上の給料がほしい
  • 大学院進学は考えていない

コンピューターサイエンス・IT専攻で大学進学するなら、学費が無料〜20万円程度、かつ英語で学べるCS専攻で、このページのどこよりも外部評価が高い大学が複数ある。商業的ポータルサイトや日本語SNSの誘導しか見ていないと気が付かないけど、就職だけでなく、わざわざ将来の給料まで計算に入れて選ぶなら、視野に入れるのは他の地域。

社会科学と違い、IT・コンピューター系の学問は地域性が薄い。どこで教育を受けても、内容はほぼ同じで、設備や内部の学生や教育のレベルなどの教育環境の違いだけが明確に表れる。教育レベルの高いところ、そうでないところも、予算で大きく差がついてしまう。

僕が好きな中東欧は、そもそも大学の予算が少なく、サイエンス関連は芳しくない。予算がないから教育も研究も整えられないし、競争力のある先生や学生も集まらない。お金の問題は、理系の専攻には如実に影響を与えてしまう。

そもそも、日本や英語圏大学の教育環境を想定していると、授業に参加した時に、この地域の大学のサイエンス教育の環境の悪さ、学生のやる気のなさ、当たり前に横行するテスト・宿題の不正、アカデミックレベルの低さ、先生の適当さにもびっくりすることが多々ある。

さまざまな面で整った英国、北米、オセアニアの教育環境を前提に、「海外大学」という巨大な括りでこの地域の大学を語ると、まず間違いなく的外れになる。僕も最初に大学訪問した時期は、想像と違ってびっくりしたことが何度もあったし、留学生から大学へのネガティブレビューも数多く受け取った。

じゃあ、どこに行くか?

コンピューターサイエンス専攻で学費無料の選択肢はいくつかあるけど、ヨーロッパに限定するなら、まずドイツのザールラント大学を目指すこと。ここは英語でコンピューターサイエンスの学士号がとれ、ドイツでも高く評価されているプログラム。学費無料で人気が高く、ハードルは高いけど、SAT抜きで面接だけで入学している人も、日本の放送大学から次に入学を目指す日本人もいる。

プログラムの外部評価も高く、大学卒業後にドイツで18ヶ月(他のEU諸国は9〜12ヶ月が多く、ドイツより短い)の仕事探しビザまで申請できる。既に多くの人に紹介したので、2022年からは日本、台湾、韓国からも合格者が増えるはず。

コンピューターサイエンス専攻ではないけど、ドイツのミュンヘン工科大学のManagement and Technologyも良い選択肢なので、経営とITに興味がある人は、ドイツのミュンヘンもぜひ念頭に。

ヨーロッパには学費無料で応用科学大学に行く選択肢もあるけど、ヨーロッパ就職希望で卒業後の給与を考えるなら、選ぶべきは研究大学。研究大学と応用科学大学では、授与される学位が異なる。卒業後の給与に雲泥の差が出ている。

ランキング対策とカモになるアジア人に関して

非英語圏ヨーロッパの一部に言えることは、「現地語プログラムには国のアカデミックな面でのトップ層が集まっても、無料の現地語プログラムと異なり、それなりの学費を要求する英語のプログラムは、学部の資金集め、大学の国際化ランキング対策の要素が強く、アカデミックレベルも低い学部が非常に多い」ということ。

現地語と比べて、英語で履修できる授業が著しく少ない学部・学科や、近年急に学費が何倍にもなった学部は、特に要注意。高い確率で、一部の国の留学生を資金集めのカモにしている。

海外の主要な認証機関の外部審査が定期的に入るおかげで、英語での教育の質が高く保たれやすく、節度ある運営をするしかない私立大学の上位層とは違い、古いヨーロッパの公立大学の学部は、海外スタンダードの教育審査とは無縁。教育の放置や非常識なレベルの急激な学費値上げなども、かなりの範囲を学部(大学本部ではなく)だけの裁量でやりたい放題にできる。

英語の学士課程のプログラムを利用して、学部の資金対策、ランキング対策をするのは、非英語圏ヨーロッパの古い国立大学の学部の常套手段。入学しやすい英語のプログラムの多くは、EU圏外の留学生を利用した効率よい資金集めになり、さらには国際性の点でランキング対策も兼ねた一石二鳥の方法。

この資金集めの熱いターゲットになっている地域の一つが、残念ながら、韓国、中国、日本などの東アジア。最近は、多くのヨーロッパの古い公立大学の学部が、劣悪な教育環境を整えずに学費を上げて、資金集めやランキング対策でアジア人学生を取り入れをはかっている。

キャンパスが現地語プログラムと別だったり、現地語の授業と違って英語で履修できる授業が著しく少なかったりする留学生用に作られたプログラムは、まずは背景を調べてみること。現地を知らないまま、ネットで表面的に大学を調べても、現実は見えてこない。学部のマーケティングトークや誤情報に踊らされてしまい、踊らされた人の発信によって、また新たにデマに引っかかる人が芋づる式に増えていく。

ランキング対策に関しては、英語で論文がちょくちょく出ているので、進学前に読んでおくと惑わされずに済むのでおすすめ。大学生は大学図書館で電子版を読めるはず。

最後に

これを読んだ良識ある保護者の方々に最後に伝えておきたいのは、「YouTuberを含めた発信者の方々は、皆さんの御子息を騙す意図はないであろう」ということ。

再生数稼ぎによる収益や高額な英語・IT関連の事業への誘導ビジネスを目的にして、よく知らない分野で発信して間違える人が日本語に増えたという点は僕も否定しないけれど、おそらく悪気のある人は誰もいないし、意図的に子どもを騙しているなどということもない。

出願料金や学費を負担する側、子どもの人生に責任がある側の保護者のお怒りは当然と感じる一方で、「高額ビジネスの宣伝目的で子どもを騙している」という類の表現は、僕には不当に厳しすぎるお言葉に感じる。

僕はどちらのサイドの肩を持つわけでもなく、ただ次の年代の高校生、大学生にいい方向で物事が進むようになってくれればいいとしか考えていない。どっちつかずで両方から責められる結果になっても、不必要に介入はしないつもり。奨学金を作っているので、それで少しだけ手助けはできるかもしれないけど、それだけに止めておく。

ABOUT ME
Yasu
Good Friends Japan CEO. We aspire to offer opportunities of international education especially to unprivileged young adults. ヨーロッパと台湾で仕事をする北海道育ち。大学をアメリカ、大学院をカナダで修了。リベラルアーツ教育、宗教教育修士。
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