ギリシャ神話の一つに、「パンドラの箱」で知られた神話がある。現代では、「開けてはならないものを開けてしまった」という意味に使われるようになった、あのパンドラの箱だ。
訳の間違いによって「箱」となっているけど、もともとのギリシャ語では、「つぼ」という意味に近い単語が使われている。
ギリシャ神話の中では、パンドラは、地球上の最初の女性だった。
彼女は、美の神アフロディテによって美しさ、音楽の神アポロによって音楽の才、弁論の神エルメスによって弁証術など、多くのものを与えられており、「すべての贈り物、すべての能力を与えられた」という意味の「パンドラ」という名前を与えられていた。
ある日、全能の神ゼウスは、これから結婚するパンドラに、人と同じくらいのサイズの大きなつぼを与えて言った。
「これだけは、決して開けてはならないよ」
しかし、好奇心を抑えきれないパンドラは、このつぼのふたを開けてしまう。
パンドラがつぼを開けたその瞬間、つぼの中からは、様々なものが外に勢いよく飛び出していった。
慌てたパンドラは、急いでつぼのふたを閉めるが、時すでに遅し。つぼの中のものは、一つのものを除いて、全て外に出て行ってしまった。
つぼの底にたった一つだけ残ったもの。
それが「希望」だった。
パンドラの箱の神話は、このようにその物語を閉じている。
なぜ、このような結末だったのか。それは誰にもわからない。
全てのものが出て行ったパンドラの箱の奥に、たった一つ残ったもの、それが希望だった。このギリシャの有名な神話は、そのような結末をもって、後世に語り伝えられていく。
希望。
多くのものを人生で失っても、これだけは、まだつぼの底にひっそりと残っている。
命がある限り、何を失ったとしても、希望だけはこの手に残っている。
僕はそう信じて、いつも前に進むことにしている。